海外進出する日本企業は増加傾向にありますが、文化や言葉の壁などの課題に直面する場合も多いでしょう。今回は、多くの日本企業が共通して遭遇する課題とその解決方法について、解説します。
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海外進出する日本企業が増加している理由
ここ数年、海外進出する日本企業が増えています。大企業だけでなく中小企業も、売上拡大や事業の存続を目指し積極的に海外進出しているという状況にあります。
多くの企業が海外進出しているのには、いくつかの理由があります。
1つ目は、日本国内の「人口減少」と「少子高齢化」の問題です。人口が減り、少子高齢化により消費意欲の高い若者が減少していくことで、ライバル企業との顧客の奪い合いが起こります。それにより売上が減り、さらには価格戦争に巻き込まれぬよう独自性や魅力を打ち出していく必要が出てきています。
2つ目は、東南アジアの「コストの低さ」「人口増加」「経済発展による消費購買力の向上」です。東南アジアでは、日本と逆で人口増加が進む国が多く、平均年齢も低い傾向にあります。日本国内では人材不足が深刻な問題になっていますが、東南アジアなどに進出することで、この問題の解消が期待できるというわけです。
3つ目は、「海外での日本ブーム」です。現在、日本の製品や日本食、日本への旅行が世界的にブームとなっています。日本の商品やサービスは高品質で安心・安全ということが世界的に知られており、高い信頼感を得ています。また海外展開だけでなく、インバウンド需要も高まっています。
こうした理由から、新たなフィールドで良い波に乗ろうと海外進出を検討している企業や、すでに海外進出しているものの、さらに事業を拡大するためにその他の国への進出を検討している企業も多く存在します。
海外進出する日本企業が抱える課題点
海外進出の際に、企業が直面する課題は数多くあります。その中でも特に「優秀な人材不足」「言語・コミュニケーションの壁」「商習慣・文化・法律の違い」「情報不足」といった問題に頭を悩ませる企業が多いと考えられます。それぞれの課題について、詳しく解説します。
課題点①:優秀な人材が不足している
1つ目の課題は、優秀な人材を確保できないことです。海外進出においては、現地言語スキルや専門知識、参入カテゴリーの動向を把握しているかなど、グローバル視点を持った人材を現地に送ることが必要不可欠となります。
現地言語スキルに関しては、現地での市場調査やパートナー企業との交渉・戦略共有、現地スタッフの教育で必要になります。また、専門知識や参入カテゴリーの動向を把握していなければ、ライバル企業に先を越されてしまう可能性もあります。それにより、自社の強みを生かせずにただ時間とコストだけが過ぎていってしまうかもしれません。
ただし、これらのスキルを持つ優秀な人材やチームを確保することは難しく、企業にとっては優秀人材の獲得は大きな課題となっています。大企業であれば、それぞれの専門部署がありますが、中小企業の場合は専門部署が無いことが多く、国内のスタッフがチームを組んで動かないといけないこともあります。
しかし海外進出するためには、国内外での市場調査や情報分析、ビジネス戦略の立案、パートナー探しなど、多岐に渡る業務が発生します。既存のビジネスと並行で行ってということは難しく、海外進出担当者を確保することが必要になるでしょう。
さらに海外進出担当者については、パートナー企業との契約やトラブルが起きた際にも早急に対応できるよう、経営権を持つ人材を配置することが重要になります。
課題点②:言語・コミュニケーションの壁
2つ目の課題は、言語やコミュニケーションの壁です。中には、日本語を話せる人が多い国や地域もあります。しかし、ビジネスレベルの日本語で問題なくコミュニケーションを取れるということは少ないでしょう。また英語は多くの地域で通じますが、日本人で英語でコミュニケーションを取れる人はあまり多くありません。仮に英語力のある人材が自社にいたとしても、進出国によっては英語が通じずに現地語を使う必要があるということも考えられます。
例えば中国に進出する場合、中国の標準語である普通話(プートンファ)を話せる人材を現地に送ったとします。しかし中国国内には数多くの方言があり、中には中国人にとっても全く聞き取れないような方言もあります。香港やマカオなどで使われている広東語(カントンゴ)は、使用している文字表記は普通話と同じでも、発音が大きく異なります。
このように、参入する地域の言語(方言)の会話能力のほか、読み書きの能力も必須になります。日常やビジネスでの会話や読み書きができれば十分というわけではなく、現地での課題解決や商談、顧客対応、現地スタッフへの教育など、幅広いシーンでの高いコミュニケーション能力も必要です。
課題点③:商習慣・文化・法律の違い
国や地域が異なれば、習慣や文化、ビジネスマナー、一般常識、嗜好も大きく異なります。海外で日本の製品の需要があるとしても、説明文などを現地の言語に変えるだけで通用するとは限りません。言語だけでなく、色やデザインも現地の人に好まれるように、その国でその商品が持つイメージや経済状況(金銭感覚)などについて、現地の需要や価値観に合わせてローカライズ(現地化)していくことが重要です。
全てを現地のやり方に合わせるのが正しいというわけではなく、日本だからこそできる品質や技術など海外でも引き継いでいきたいというこだわりの部分は強調すべきで、そのバランスが重要です。
また日本のビジネスマナーは日本独特のものです。飲み会をするなどプライベートの時間での付き合いも、海外では全く無い場合もあります。「空気を読む」といったことも日本人は普通にしていることですが、海外ではほぼ通用しないでしょう。
海外で日本と同じ仕事の進め方をしていては、その国でタブーとされる行動をしてしまったりと、商談が破談につながるケースも珍しくありません。特に海外では意思決定がスピード重視であることや、イエス・ノーを明確に伝える傾向があるため、いかに現地の文化を理解し、尊重しながら仕事を進めていくかということがカギになります。
現地の法律やルールなどに関しては、会社設立から移転、撤退までをサポートしてもらえる国際的な弁護士や税理士に依頼しましょう。書類作成や各種申請などの手続きをスムーズに進め、法律違反やトラブルのリスクを削減することも重要です。
課題点④:進出前後における情報不足
4つ目は、進出前と海外展開している段階での情報不足による問題です。まずは海外進出する前に、その国・エリアの市場規模や規制、法律、ビジネスにおける文化や風習、競合企業、パートナー企業、顧客ニーズなどの情報を収集する必要があります。
集めた情報は、実際に進出できるのか、商品やサービスは変える必要があるのかなど、戦略を練る上での大切な判断材料になるでしょう。調査不足のまま海外進出し、戦略を生かしきれずに失敗してしまうという企業もたくさんあります。
また売上や利益を上げるためにはパートナー企業と情報共有する必要がありますが、コミュニケーション不足やビジネス感覚の違いにより、多くの損失が発生する可能性があります。最悪の場合、撤退せざるを得ない状況になるかもしれません。「なるようになる」「当たって砕けろ」「とりあえず売れるかどうかやってみよう」のように行き当たりばったりの行動では、失敗する確率を上げることになるので、注意が必要です。
大企業は多くの資金を投入可能ですが、中小企業の場合、予算が限られているため、市場調査に十分な情報を集められないまま海外進出してしまうという状況も考えられます。ただしそれは事業規模縮小や移転、さらには撤退へと進んでしまう可能性もあり、非常に危険です。
海外進出する企業が抱える課題の解決策
先ほど述べたように海外進出で企業が直面する5つの課題についてどのように解決していけばいいのか、順番に解説していきます。
解決策①:優秀な人材が不足している
海外進出にはグローバル人材が必要とされています。グローバル人材育成推進会議が発表したグローバル人材の定義は、以下の3つの要素となっています。
- 語学力・コミュニケーション能力
- 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
- 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー
日本人でこれらの要素を持つグローバル人材を確保するのは、難しい場合もあります。日本人で人材を探すより、現地で優秀な人材を採用するほうが現実的でしょう。しかし現地スタッフのマネージメントは難しく、せっかく確保した優秀な人材をすぐに逃してしまう場合もあります。現地スタッフにとっては、悪いところばかり指摘されるといった日本の会社のやり方に反発したり、退屈だと感じたりすることがあるからです。海外では人前で注意することは厳禁な場合もあります。
そういったことが起こらないようにするためには、その国の文化や価値観に合わせて、相手を理解する姿勢が重要です。そして異文化ならではの職場環境を構築しなければなりません。言葉に出さなくとも理解してもらえたり、空気を読んだりといったことは、日本独特の文化です。意見やアドバイスは感情的に伝えるのではなく、伝え方を工夫し冷静に対処していくことが重要です。
ただし、日本人としてのアイデンティティーを持つことも忘れてはいけません。海外では、日本の文化や習慣、マナーなどについても聞かれる場合があります。その際に自信を持って日本について説明できるよう、日ごろから日本文化などについて学んでおきましょう。それが、信頼関係を構築する助けになるかもしれません。
解決策②:言語・コミュニケーションの壁
海外進出では、現地のパートナー企業やスタッフと直接コミュニケーションを取る必要があります。その際に現地の言葉を話せなくても、通訳を介してコミュニケーションを取ることができます。しかし、商談のアポイントメントや現地パートナー企業との突発的な情報共有、細かい指示などでは、日本企業のスタッフが現地語を用いて直接話せるのがベストです。
正式な契約や重要な会議の際は、優秀な通訳・翻訳者を雇うことをおすすめします。ただ現地語を通訳・翻訳できるだけでなく、その業界や扱う商品・サービスの知識があること、より良いコミュニケーション能力がある通訳・翻訳者を雇うことが、ビジネス成功への第一歩となるでしょう。
解決策③:商習慣・文化・法律の違い
日本と進出国での商習慣や文化、法律の違いにより、ビジネスがトラブル続きになったり、失敗に終わったりというケースもあります。当たり前ですが、国が違えば文化や常識、価値観など考え方も大きく変わってきます。日本と現地で異なる部分について、基本的な点は市場調査でも把握可能です。しかし認識が甘かったり、認識しているのにも関わらず対策を取らなかったりということにより、その国で処罰を受けることもあります。最悪の場合、進出が禁止されるかもしれません。
また現地パートナー企業や、現地スタッフ、現地取引先との関わりにおいて、その国の常識や習慣について正しく理解していない場合、トラブルが起こりやすくなります。我々日本側が進出先の国との違いを理解し、尊重した上で対策を取ることが重要です。さらに、互いの文化の違いについて相手側にも興味や関心を持ってもらうことで、ビジネスが円滑に進む可能性もあります。
そして海外進出でも「おもてなしの心」のような日本独特の文化を打ち出していくためには、現地スタッフが接客やサービス精神の意味について学ぶ必要があります。動画を視聴したり、日本に来て実際の現場で研修したりといった方法で教育していくことをおすすめします。
解決策④進出前後における情報不足
海外進出において、情報収集はビジネスの成功を左右する重要な役割を持ちます。日本でインターネットリサーチ(デスクリサーチ)により情報収集するだけでは足りないかもしれません。簡単な調査なら現地に住む人に依頼することもでき、コストもそれほどかかりません。しかし参入するカテゴリーの市場調査や顧客ニーズ、競合企業、規則・法律、商習慣、などについては、専門の調査会社に依頼することをおすすめします。
調査会社はさまざまありますが、参入を検討している国・地域や業界に強い会社を探すことが重要です。調査会社によっては、情報不足に対する提案も行うことができる場合もあります。調査コストは、簡単なもので数十万円から、調査項目が多くなる場合で数百万円と、幅があります。海外進出の際は、あらかじめ十分な調査費用を確保しておくことが必要になります。
市場調査する目的とは、集めた情報を分析し戦略を立てることです。自社で市場調査を行うことができれば問題ありませんが、難しい場合には、調査設計から市場調査、分析までを一貫して実施可能な調査会社へ依頼することをおすすめします。
その他に成功のためにすべきこと
海外進出を成功させるためには、上記で指摘した課題を明確にし、解決策を見いだし実行していくことが大切です。また、進出国や地域についての理解や対策に重点を置きがちですが、自社の強みや弱みを理解しておくことも必要です。
例えば、「中小企業なので大企業と比べ資金力は不足しているが、経営陣以外でも決定権を持つことができるため柔軟でスピード感を持って意思決定できる」「大企業なので市場調査に多額の費用を投入できるほど予算は潤沢だが、承認が何段階もあり迅速に行動できない」など、第三者の目線で自社を分析することも必要です。それにより、どんな長所を生かし、どう欠点を補うかなどについて、明確になっていくはずです。
資金力がない場合は、国や民間が行っている助成金や補助金制度を利用することもできるかもしれません。社内の承認に時間がかかり決定スピードが遅くなってしまう場合は、工程を簡素化し効率を図るといった対策を取るなど、マイナスをプラスに変える想像力も必要です。
まとめ
この記事では、海外進出を検討している方向けに「多くの企業が遭遇する海外進出での課題やその解決策」について解説しました。日本には「おもてなしの心」「繊細さ」「清潔感」「約束を守る」といった素晴らしい点が多くあり、それは世界でも知られています。逆に、日本では当たり前であることが海外では行われていないなど、文化や習慣の違いを感じることもあるでしょう。
海外進出では日本の良さややり方をそのまま持ち込むのではなく、お互いに寄り添った環境作りや理解を深めることなどが大切です。新たな市場で成功させるため、事前にしっかりと準備し、海外展開に挑戦していきましょう。
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