海外進出で知っておくべきリスクとその対処法を解説

海外進出が困難なものとなる理由の一つにリスクがあります。日本国内でビジネスを行う際には出てこない、起こる可能性の非常に低いようなリスクに対し、海外ビジネスでは優先的に対策をしていく必要があります。当記事では、海外輸出と海外直接投資の際に知っておくべきリスクを中小企業庁の分析結果に基づいてご紹介した上で、日本国内と海外でのビジネスにおけるリスクマネジメントの違い、海外進出でのリスクマネジメントのポイントをお伝えします。

海外輸出にあたり知っておくべきリスクと対処法

2014年版の中小企業白書によると、輸出企業が直面している課題として、販売先の確保や現地の市場動向・ニーズの把握、採算性の維持・管理、人材確保などが挙げられており、リスクとしては、為替変動のリスクが一番大きく、次に経済情勢の変化、政情不安・自然災害、知的財産・技術流出のリスクが挙げられています。

出典:中小企業白書2014
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/PDF/09Hakusyo_part3_chap4_web.pdf

商取引面でのリスク

商取引面に絞った調査では、2012年の中小企業白書で以下のような結果が出ています。

出典:中小企業白書2012
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H24/PDF/Hakusyo_part2_chap2_sec1_web.pdf

課題として、現地ニーズの把握や情報収集、現地のマーケティング、ビジネスパートナーの確保、現地での取引条件が挙げられており、リスクとしては直接輸出を行う中小企業のうち23%が「取引先の信用不安」を挙げています。

日本から遠く離れた国の取引先の実態は、日本国内の取引先と比べて情報が入ってきにくい面があり、場合によっては資金の回収が困難になったり、技術を盗まれたりするリスクがあります。取引先の信用不安のリスクに対しては、取引を開始する前に財務的な信用情報を信用調査機関から入手したり、現地の業界での評判を事前に調査しておくことで、取引先の信用について自社で評価することができます。

事業環境面でのリスク

輸出企業が直面する事業環境面のリスクでは、為替の変動リスクを挙げた企業が70%に上り、続いて経済情勢の変化、法制度の不明瞭さ、政情不安や自然災害、そして知的財産の侵害・模倣品の増加がリスクとして挙げられています。商取引面での課題・リスクよりも多様なリスクが挙げられており、特に海外輸出にあたっては海外という特殊な事業環境から直面するリスクが事業をする上で大きな影響を与えていることがわかります

為替変動リスクに対しては、取引の円建て化、為替リスクを見込んだ販売額の設定、原材料・部品の調達方法の変更、銀行での為替予約、などの方法で対応できます。経済情勢の変化、法制度の不明瞭さ、政情不安や自然災害のリスクに関しては、契約時に自然災害時の免責条項を必ず記載するのに加え、現地拠点のスタッフに情勢の変化や法制度について頻繁に情報収集をしてもらい、本社と海外拠点とのコミュニケーション体制を平時より整えておく、また危機が起こった際の対応をマニュアル化しておくなど事前準備と定期的な見直しの実施を行い、リスクに対応していきます。

知財に関するリスク

上記の事業環境面でのリスクとして「知的財産の侵害、模倣品の増加」が挙げられていました。特に技術力を強みとするような製造業などにおいては、進出先国で技術が模倣されてしまうことは自社の資産である長年蓄積してきたノウハウと強みを盗まれることとなり、とても大きなリスクです。また知的財産が侵害されるほかにも、自社が第三者の知的財産の権利を侵害したとして訴訟を起こされるリスクもあります。海外での訴訟リスクは、日本国内と比較して桁違いで、また訴訟に対応するための弁護士費用は、アジアなど新興国でも先進国並みの高額なものとなります。訴訟を起こされると、高額な損害賠償が請求されることに加え、企業としての信用を失ってしまう可能性もあります。

自社の知的財産が侵害されるリスクへの対処法として、海外出願が有効です。事業の海外展開を踏まえ、多くの企業が海外出願を重要視しています。各都道府県には知財総合支援窓口が設置されており、海外出願手続や進出先国の知財制度情報、模倣被害への対応方法などについても相談ができます。知的財産を戦略的に活用することで、海外展開に成功している中小企業もあります。

また、第三者権利の侵害による訴訟リスクを防ぐためには、進出先国内において自社技術と抵触する特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの第三者権利の有無を事前に調査することが必要です。抵触しそうな権利を発見した場合には、その権利の有効性を確認した上で、無効にできる資料の確保をします。また可能であれば、使用許諾や実施許諾を得ることも検討します。第三者権利の調査に加え、自社が既に取得している権利が潰されないかどうかの事前確認も重要です。

こういった進出国の知的財産権の事前調査をすると、同業他社の研究開発状況や技術の方向性、競合他社がどの国に出願展開しようと考えているかといった様々な情報を得られます。特許広報などの調査により、自社と他社の技術や特許の分析を行い、自社が参入して勝ち目があるかどうか、といった客観的な評価ができます。このように知財のデータベースの利用は自社の海外展開戦略にも繋がります。

海外直接投資にあたり知っておくべきリスクと対処法

次に海外直接投資をおこなう企業が直面している課題を見ていきます。2014年版の中小企業白書によると、輸出企業が直面している課題には、現地人材の確保や育成・管理、採算性の維持・管理、販売先の確保、海外展開を主導する人材の確保・育成などが挙げられており、リスク面では人件費の高騰と為替変動リスク、経済情勢の変化、情勢不安・自然災害、知的財産・技術流出のリスクが挙げられています。生産機能の直接投資先を持つ企業にとっては、現地人材の確保・育成・管理と人件費の高騰が最も大きな課題・リスクと捉えられており、販売機能の直接投資先を持つ企業にとっては、販売先の確保が最も大きな課題と捉えられています。

商取引面でのリスク

海外へ直接投資している企業が直面している商取引面での課題には、現地でのマーケチング、現地での品質管理、現地ニーズの把握・情報収集、生産・供給体制の構築があり、リスクとしては取引先の信用不安が挙げられています。また、生産拠点保有企業の半分以上が現地での品質管理を課題として挙げています。自社でコントロールしにくい商取引面でのリスクは、輸出企業と同様、「取引先の信用不安」があることがわかります。

事業環境面でのリスク

直接投資企業が直面している事業環境面の課題は、現地人材の確保・育成・労務管理などが挙げられており、リスクとしては為替の変動を初め、人件費の上昇、法制度や規制の不透明さ、経済情勢の変化、政情不安・自然災害、現地物流やインフラの未整備、知的財産の侵害・模倣品の増加など多数挙げられています。

輸出企業が直面するリスクに加え、人件費の上昇と現地の物流・インフラの未整備が挙げられており、生産拠点を持つ企業では60%以上、販売拠点をもつ企業では46%以上が「現地での人件費の上昇」をリスクと捉えています。人件費の上昇は進出先の経済発展に繋がり消費者の購買力の上昇が期待できると同時に、拠点の人件費と生産コストの増大に繋がります。生産拠点の対応としてはより人件費の安い国へ拠点を移したり、あるいは生産拠点を日本に戻し品質管理や地理的リスクに対するコストなどの別のコストを抑えていく方法が考えられます。

日本国内と海外でのビジネスにおけるリスクマネジメントの違い

基本的なリスクマネジメント方法は同じ

基本的に、日本でも海外でもリスクマネジメントの方法は同じです。リスクを特定し、分析と評価を行い、対策します。対策を講じた後は、変化をモニタリングし、課題があれば改善していくというようにPDCAサイクルを回していきます。

日本国内ではリスクとして出てこない項目

日本と海外でのリスクマネジメント方法として異なるのは、想定されるリスクの種類と優先度が違うことです。日本国内のビジネスにおいてはあまりリスクとして挙げられない項目が、海外ビジネスにおいては優先度が高くなります。世界情勢は目まぐるしく変化しているため、特に海外でのビジネスを行う場合には、対象国や地域、そして世界各国の繋がりを意識し、ニュースや現地の情報を毎日入手して状況変化の把握に努める必要があります。例えば「イギリスのEU離脱」や、「トランプ政権の誕生」といった事項が自社ビジネスに与えうる影響を考え、対応策を検討し実行していきます。

海外進出でのリスクマネジメントのポイント

重要なリスクを選定する

すべてのリスクに対応することは困難であるため、優先的に対応するべきリスクを事前に検討し、対応方法を決定しておきます。自社にとってのリスクを発生可能性と影響度の2つの軸で可視化し、優先して対応すべきリスクを比較します。優先度の高いリスクについては、想定シナリオを検討し、日本本社と海外拠点とでどのように対応するか事前に決めておくと危機が起きた際にスムーズな対応に出ることができます。

リスクの選定と対応策の事前検討には、中小機構の「海外リスクマネジメント」マニュアルのウェブサイトよりダウンロードできる危機発生時における対応事項リスト(テンプレート4)を活用することもできます。

中小機構、「海外リスクマネジメント」マニュアルウェブサイト
https://www.smrj.go.jp/tool/manual1/index.html

現地従業員とのコミュニケーション

海外で有効なリスクマネジメント活動を行うにあたり重要なのが、現地拠点とのコミュニケーションと緊急時の迅速な連絡体制を構築しておくことです。常日頃より日本と海外拠点でのコミュニケーションを積極的にとり、有事平時ともに連絡を密にとることのできる社内体制を作ります。
海外拠点の従業員全員がリスクマネジメントの必要性を理解できるよう情報共有に努め、また海外拠点におけるリスクマネジメントの方向性を定めて現地の責任者を決めることも重要です。日本から遠距離でリスク対応をするのは意思決定までの時間がかかり、現地状況が見えづらく困難があるため、状況判断能力のある海外拠点の責任者に判断権限を委譲し、柔軟で迅速な対応ができるようにしておくのがよいでしょう。

特に現地の情報に関しては、現地従業員のほうが日本人に比べその国の事情に詳しく、また日本語の情報を待つよりも現地語・現地メディアで発表される情報の方が早くオンタイムで情報収集できるため、現地の情報収集責任者を決めて日本側に迅速に情報が集まるような社内体制の構築がリスクマネジメントにおいて有効です。

リスクマネジメント業務のマニュアル化

リスクマネジメント業務は、リスクが起きた際に行うのではなく、事前に必要情報を準備し、定期的に見直しと改善を行えるよう習慣化することが重要です。例えば、中小機構「海外リスクマネジメント」マニュアルのウェブサイト上よりダウンロードできる「危機発生時における対応事項リスト」「緊急通報先一覧」「危機報告フォーマット」を参考に、必要最低限の情報を更新し、有効かどうかの検証を定期的に行なっていくとよいでしょう。

中小機構、「海外リスクマネジメント」マニュアルウェブサイト
https://www.smrj.go.jp/tool/manual1/index.html

また、実際に海外進出を行うのにあたり、進出有望国を検討する際、そして進出後のリスク管理には、リスク評価シートを利用した体系的なリスク評価と対策の検討が重要です。リスク評価シートも、上記中小機構の海外リスクマネジメント」マニュアルウェブサイトよりダウンロードできます。こちらも、定期的にリスク評価の更新と対策の実施状況の確認を行い、改善していく必要があります。

まとめ

新興国をはじめとする成長著しい海外市場は大変魅力的で、進出が成功すれば売上の拡大が大いに期待できる反面、日本国内でビジネスをする際には直面しなかった海外環境ならではのリスクが伴います。様々なリスクを0にすることはできませんが、事前に調査と準備をし、リスクマネジメントに対する社内での認識を共有するとともに、現地拠点とのコミュニケーションを定期的に取っていく姿勢によってリスクを抑えたビジネス展開が可能になります。

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