海外進出する上では、さまざまなリスクが伴います。海外輸出と海外直接投資の際に知っておくべきリスクとその対処法を紹介し、日本と海外のリスクマネジメントの違いなどについても説明します。
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海外輸出におけるリスクと対処法
経済産業省の「通商白書2023」では、現在輸出を行っている企業・行っていない企業について、それぞれの今後3年間の方針のアンケート結果が紹介されています。それによると、いずれの企業においても前年度調査から「新たに取り組みたい」との回答が減少しているほか、輸出を行っていない企業については「今後とも行う予定はない」との回答が増加しているという結果となっています。その理由として、下記が挙げられています。
- コロナ禍やロシアによるウクライナ侵略の影響
- 為替動向や世界的なインフレの動向
- 半導体不足により部品が入荷できない
- 生産能力と輸出量がほぼ同量であり拡大が難しい
通商白書では、不確実性が高い状況が積極的な投資判断を難しくしており、中間財の供給や生産能力が需要と合わない需給ひっ迫の様子がうかがえると分析しています。
このように、海外輸出においては為替など日本とは違うリスクがあります。さらに昨今の世界情勢が、海外へのビジネス拡大を困難にしているという状況にあります。
【出典】経済産業省:通商白書2023「第Ⅱ部 第2章 グローバルな成長の取り込みによる成長力の強化」
それでは具体的にどんなリスクが想定されるか、3つ紹介します。
商取引面でのリスク
日本から遠く離れた国の取引先の実態は、日本国内の取引先と比べて情報が入ってきにくい面があり、場合によっては資金の回収が困難になったり、技術を盗まれたりするリスクがあります。取引先の信用不安のリスクに対しては、取引を開始する前に財務的な信用情報を信用調査機関から入手したり、現地の業界での評判を事前に調査しておくことで、取引先の信用について自社で評価することができます。
直接輸出を行う中小企業にとって、大きなリスクとなるのが、取引先の信用不安です。日本から遠く離れた国の取引先の実態は、日本国内の取引先と比べて情報が入ってきにくく、場合によっては資金の回収が困難になったり、技術を盗まれたりするといったリスクがあります。
取引先の信用不安のリスクに対しては、取引を開始する前に財務的な信用情報を信用調査機関から入手したり、現地の業界での評判を事前に調査したりしておくことで、取引先の信用度を自社で評価することができます。
商取引面に絞った調査では、2012年の中小企業白書で以下のような結果が出ています。
出典:中小企業白書2012
課題として、現地ニーズの把握や情報収集、現地のマーケティング、ビジネスパートナーの確保、現地での取引条件が挙げられており、リスクとしては直接輸出を行う中小企業のうち23%が「取引先の信用不安」を挙げています。
事業環境面でのリスク
輸出企業が直面する事業環境面のリスクとしては、為替の変動リスクが一番大きいです。そのほか、経済情勢の変化、法制度の不明瞭さ、政情不安や自然災害、知的財産の侵害・模倣品の増加が挙げられます。商取引面での課題やリスクよりも多様な内容が想定され、特に海外輸出においては、海外という特殊な事業環境から直面するリスクがその企業の動向に大きな影響を与えることになります。
為替変動リスクに対しては、取引の円建て化や為替リスクを見込んだ販売額の設定、原材料・部品の調達方法の変更、銀行での為替予約などの方法で対応できます。経済情勢の変化、法制度の不明瞭さ、政情不安や自然災害のリスクに対しては、契約時に自然災害時の免責条項を必ず記載するのに加え、現地拠点のスタッフに情勢の変化や法制度について頻繁に情報収集をしてもらい、本社と海外拠点とのコミュニケーション体制を平時より整えておく、また危機が起こった際の対応をマニュアル化しておくなどの事前準備を行うことが大切でう。情報は定期的に見直し、随時更新していく必要があります。
知財に関するリスク
事業環境面でのリスクとして、知的財産の侵害・模倣品の増加が挙げられています。特に技術力を強みとする製造業などにとって、進出先国で技術が模倣されてしまうことは、自社の資産である長年蓄積してきたノウハウと強みを盗まれることになり、大きな損害に直結します。知的財産が侵害される以外にも、自社が第三者の知的財産の権利を侵害したとして訴訟を起こされるというリスクもあります。海外での訴訟リスクは、日本国内より桁違いに多く、また訴訟に対応するための弁護士費用は、新興国でもかなり高額です。訴訟を起こされると、高額の損害賠償が請求されることに加え、企業としての信用を失ってしまう可能性もあります。
自社の知的財産が侵害されるリスクへの対処法として、海外出願が有効となります。事業の海外展開を踏まえ、多くの企業が海外出願を重要視しています。各都道府県には知財総合支援窓口が設置されており、海外出願手続きや進出先国の知財制度情報、模倣被害への対応方法などについての相談を受け付けています。知的財産を戦略的に活用することで、海外展開を成功させている中小企業もあります。
また、第三者権利の侵害による訴訟リスクを防ぐためには、進出先国内において自社技術と抵触する特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの第三者権利の有無を事前に調査することが必要です。抵触しそうな権利を発見した場合は、その権利の有効性を確認した上で、まずは無効にできる資料を確保します。可能であれば、使用許諾や実施許諾を得ることも検討します。第三者権利の調査に加え、自社がすでに取得している権利が侵害されないかどうかについての事前確認も行いましょう。
進出国の知的財産権についての事前調査を行うと、同業他社の研究開発状況や技術の方向性、競合他社がどの国に出願展開しようと考えているかなど、さまざま情報を得ることができます。特許広報などの調査により、自社と他社の技術や特許の分析を行い、自社が参入して勝ち目があるかどうかなどについても、客観的に評価可能です。知財に関するデータベースを活用することは、自社の海外展開戦略策定の際にも役立ちます。
海外直接投資におけるリスクと対処法
海外直接投資では、現地人材の確保や育成・管理、採算性の維持・管理、販売先の確保、海外展開を主導する人材の確保・育成などが挙げられており、リスク面では人件費の高騰と為替変動リスク、経済情勢の変化、情勢不安・自然災害、知的財産・技術流出のリスクなどが課題となります。生産機能の直接投資先を持つ企業にとっては、現地人材の確保・育成・管理と人件費の高騰が、最も大きな課題やリスクとなっています。販売機能の直接投資先を持つ企業にとっては、販売先の確保が最も大きな課題となります。
ここでは、商取引面と事業環境面でのリスクを説明します。
商取引面でのリスク
海外へ直接投資している企業が直面している商取引面での課題として、現地でのマーケティングや品質管理、現地ニーズの把握・情報収集、生産・供給体制の構築が挙げられます。またリスクとしては、取引先の信用不安が多くを占めます。また生産拠点を保有する半分以上の企業が、現地での品質管理を課題として挙げています。自社でコントロールしにくい商取引面でのリスクは、輸出企業と同様に取引先の信用不安であると言えます。
対処法については、海外輸出の際と同様に自社でしっかり調査と判断を行うことが絶対条件になります。各調査データや調査期間も活用しましょう。
事業環境面でのリスク
事業環境面の課題としては、現地人材の確保・育成・労務管理などが挙げられます。また為替の変動のほか人件費の上昇、法制度や規制の不透明さ、経済情勢の変化、政情不安・自然災害、現地物流やインフラの未整備、知的財産の侵害・模倣品の増加など、多数のリスクが想定されます。
輸出企業が直面するリスクに加え、人件費の上昇と現地の物流・インフラの未整備が挙げられており、生産拠点を持つ企業と販売拠点をもつ企業の両方で、現地での人件費の上昇がリスクとなります。人件費の上昇は進出先の経済発展につながり、消費者の購買力拡大が期待できるようになるでしょう。その反面、拠点の人件費と生産コストの増大に直結します。
生産拠点の対応としては、より人件費の安い国へ拠点を移したり、生産拠点を日本に戻して品質管理や地理的な問題解消によるコストカットなどを行ったりといった方法が得策の場合もあります。
日本と海外のビジネスにおけるリスクマネジメントの違い
基本的なリスクマネジメント方法は同じ
日本でも海外でも、リスクマネジメントの方法は基本的には同じになります。リスクを特定した上で分析と評価を行い、対策するという流れになります。対策を講じたあとは、変化をモニタリングし、課題があれば改善していくというようにPDCAサイクルを回していきます。
日本国内ではリスクとして出てこない項目
日本と海外でのリスクマネジメント方法として異なる部分は、想定されるリスクの種類と優先度が違うということです。日本国内のビジネスにおいてはあまりリスクとして挙げられない項目が、海外ビジネスにおいては優先度が高くなるということはよくあります。世界情勢は目まぐるしく変化しているため、特に海外でビジネスを展開する際には、対象国や地域、さらには世界各国の関係性を意識し、ニュースや現地情報を日々チェックする必要があります。
海外進出でのリスクマネジメントのポイント
海外でビジネスを行う際、必要となるリスクマネジメントのポイント3つについて説明します。
重要なリスクを選定する
全てリスクに対応することは困難であるため、優先的に対応するべき項目を事前に検討し、対応方法を決定しておくことが大切です。自社にとってのリスクについて、発生可能性と影響度の2つの軸で可視化し、優先して対応すべきリスクを比較しましょう。そして優先度の高いリスクについて、想定シナリオを検討し、日本拠点(本社)と海外拠点のそれぞれでどのように対応するかについて事前に決めておきます。それがスムーズなリスク対処につながります。
リスクの選定と対応策の事前検討には、中小機構のウェブサイトで「海外リスクマネジメント」マニュアルより「危機発生時における対応事項リスト(テンプレート4)」をダウンロードし活用することもできます。
現地スタッフとのコミュニケーション
海外でのリスクマネジメントを行う際に重要なのが、現地拠点とのコミュニケーション構築と緊急時の迅速な連絡体制の整備です。日頃から日本と海外拠点間のコミュニケーションを積極的に行い、常に連絡を取りやすい環境を整えます。
海外拠点のスタッフ全員がリスクマネジメントの必要性を理解できるように情報共有に努め、かつ海外拠点におけるリスクマネジメントの方向性を定めた上で現地責任者を指名しておくことも重要になります。日本から遠隔でリスク対応を行う場合、意思決定までに時間を要し、かつ現地の状況を把握しにくいという欠点があります。状況判断能力のある海外拠点の責任者に判断権限を委譲し、柔軟で迅速な対応ができるような体制にしておきましょう。
当然ながら現地スタッフのほうが日本人より自国の事情に詳しく、また日本語の情報を待つよりも現地語や現地メディアで発表される情報の方が、素早く情報収集をできます。現地の情報収集責任者を決め、日本側に迅速に情報が届くような社内体制の構築がリスクマネジメントにおいて有効です。
リスクマネジメント業務のマニュアル化
リスクマネジメントにまつわる業務は、リスクが起きた際に行うのではなく、事前に必要情報を準備し、定期的に見直しと改善を行うよう習慣化することが重要です。例えば、中小機構「海外リスクマネジメント」マニュアルからダウンロードできる「危機発生時における対応事項リスト」「緊急通報先一覧」「危機報告フォーマット」を参考に、必要最低限の情報を更新し、有効かどうかの検証を定期的に行なっていくとよいでしょう。
また、進出有望国を検討する際や進出後のリスク管理には、リスク評価シートを利用した体系的なリスク評価と対策の検討が重要です。定期的にリスク評価の更新と対策の実施状況の確認を行い、改善していく必要があります。
まとめ
新興国をはじめとする成長著しい海外市場への進出は大変魅力的で、進出が成功すれば売上の拡大が大いに期待できる反面、日本国内のビジネスでは直面しないようなリスクが伴います。さまざまなリスクをゼロにすることはできませんが、事前に調査と準備を入念に行い、リスクマネジメントに対する社内での認識を共有していきましょう。さらに現地拠点との綿密なコミュニケーションにより、リスクを抑えたビジネス展開が可能になります。
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