これまで中小企業は日本国内でビジネスを拡大させ、資金が潤沢にある大企業のみが海外進出するというようなイメージがありました。実際には大企業だけに限らず数多くの中小企業が海外へ進出し、ビジネスチャンスを掴もうとする企業の数は増加しています。
しかしせっかく大きな期待を持って海外進出しても、トラブルや資金繰りなどの理由によって短期間で撤退せざるを得ない企業が多いのも事実です。
そこで今回は「海外進出で失敗してしまう理由」や「リスクを減らす対策方法」について紹介していきます。
具体的には、
- 日本の企業が海外進出する4つの理由
- 国、地域別の「海外進出ランキング」と「撤退割合」
- 企業が陥りやすい「6つの失敗パターン」と「その対策」
- 海外進出で失敗リスクを減らす対策方法
について徹底解説していきます。
海外進出を検討している企業は出来る限り失敗リスクを減らし、大きなチャンスを手に入れましょう。
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目次
日本の企業が海外進出する4つの理由
まずは日本企業がどのような理由で海外に進出しているのか、4つの理由を紹介していきます。
進出理由①国内市場の規模縮小による危機
出典: 内閣府「平成30年版高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_1_1.html
1つ目の進出理由は国内の市場が縮小している危機を回避するためです。日本の総人口は2017年時点で1億2671万人、そのうち27.7%の3,515万人が65歳以上と少子高齢化が大きく進んでいます。今後も少子高齢化の勢いは止まらないと予想され、2040年の総人口は1億1092万人、2060年には9,284人と1億人をきってしまうと予想されています。一方で世界の人口は2019年時点で77億人、2030年には85億人、2050年には97億人と大きく増加していく予測がされています。
人口減少と少子高齢化が進むということは日本国内だけでビジネスを行っている人にとって顧客が減り、会社を存続させていくためには客単価を上げることや販売のやり方をこれまでと大きく変えなければなりません。そのことから人口が増加していく世界に視野を広げ、海外進出する企業が増えているのです。
進出理由②市場の開拓や販路の拡大
2つ目の進出理由は、今置かれた日本の市場規模に満足せず市場開拓や販路拡大するためです。先ほども述べたように人口が減少するということは、日本国内では売上拡大が難しくなっている状況になってきました。海外ではシェア拡大できる市場が残っていることや将来的に海外の需要増加を見込めるとして、ビジネスチャンスを掴もうとする日本企業が多く進出しています。
進出理由③人件費などのコスト削減
3つ目の進出理由はアジアは日本と比べて物価が安いため、人件費、製造原価、原材料費などコストを抑えることができることです。さらに現地の若い世代や高い技術を持つ豊富な人材を活用することも可能です。コスト削減することで利益を確保し、国内で問題視されている人手不足を解消することが見込まれます。中国は人件費や原材料の調達など費用を抑えられるため「世界の工場」として数多くの国の中でも人気進出国でした。しかし急激な人件費高騰によって、中国とその他の国合わせて展開する企業が増加しています。
そういったリスクヘッジ方法を「チャイナ・プラスワン」と呼び、ベトナム、フィリピン、ミャンマーなどの発展途上国が第2の進出国として高く評価されています。ただし経済成長により物価や人件費の高騰で利益が薄くなってしまうことがあるため、投資した分はどれだけの期間で回収できるのか将来予測をしておく必要です。
進出理由④顧客からの進出要望
4つ目の進出理由は顧客からの進出要望があり、展開していくことです。顧客からの進出要望には、大きく分けて2つのパターンがあげられます。まず1つは輸出の効率化を図るために、現地で生産拠点を構えるように要望されることです。次に大口取引が海外に展開するため、予定していなかったが自社でも海外進出せざるを得ない状況になったパターンです。この場合はどれほど取引の確約がされるのか、契約や関係性が重要になってくるでしょう。
国・地域別の「海外進出ランキング」と「撤退割合」
海外進出する企業は数多くありますが、実際にどれほどの企業が海外に進出しているのでしょうか。そしてどれほどの割合で撤退しているのでしょうか。進出数と合わせて国・地域別に紹介していきます。
海外進出する企業の推移
出典:外務省「平成30年要約版海外進出在留邦人数調査統計」https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000368753.pdf
海外進出方法は「本邦企業」「現地法人企業」「区分不明」と3つの分類に分けられます。
- 「本邦企業」
- 現地法人化されていない日系企業
- 「現地法人企業」
- 日本企業とは独立して現地に法人を設立した日系企業
- 「区分不明」
- 現地法人化されているか否かが不明な日系企業
平成17年には全体で35,134拠点に対し平成29年には75,531拠点と、12年間で約2.1倍も増加していることが分かります。本邦企業は平成17年5,286拠点から平成の29年には5,347拠点と横ばいの数字ですが、現地法人企業や区分不明では右肩上がりに拡大しています。
出典:外務省「平成30年要約版海外進出在留邦人数調査統計」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000368753.pdf
上記は平成20年から平成29年に海外進出した日本企業の数を国別に表しています。対象としている国は進出国で人気の国、上位12カ国で調査した内容です。
≪進出上位12カ国≫
- 中国
- 米国
- インド
- タイ
- インドネシア
- ベトナム
- ドイツ
- フィリピン
- マレーシア
- シンガポール
- メキシコ
- 台湾
≪平成29年度の12カ国の順位≫
順位 | 国 | 拠点数 | 全体の割合 |
---|---|---|---|
1 | 中国 | 32,349 | 約43% |
2 | 米国 | 8,606 | 約11% |
3 | インド | 4,805 | 約6.4% |
4 | タイ | 3,925 | 約5.2% |
5 | インドネシア | 1,911 | 約2.5% |
6 | ベトナム | 1,816 | 約2.4% |
7 | ドイツ | 1,814 | 約2.0% |
8 | フィリピン | 1,502 | 約1.7% |
9 | マレーシア | 1,295 | 約1.6% |
10 | シンガポール | 1,199 | 約1.6% |
11 | メキシコ | 1,182 | 約1.6% |
12 | 台湾 | 1,179 | 約1.6% |
外務省の調査によると日系企業が最も進出している国は「中国」への展開で、進出企業全体の約43%を占めています。平成20年には29,199拠点、平成29年では32,349拠点と大きな変化はないものの、2位の「米国」と約4倍の差があるほど群を抜いた拠点数です。
第2位の「米国」は5,639拠点から8,606拠点と緩やかに伸びています。急激な増加を見せているのが3位「インド」(4,805拠点=全体の約6.4%)、4位「タイ」(3,925拠点=全体の約5.2%)です。「インド」は平成24年と平成25年で大きな伸び率を見せ、拠点数としては中国にはまだ及ばないものの、10年の間で約6倍に増加する拡大ぶりです。「タイ」は平成20年~平成28年までは1,300拠点~1,800拠点前後と米国同様緩やかな増加推移でしたが、平成29年には約2.2倍の3,925拠点まで爆発的に拡大し、第3位のインドを追い越すような伸び率になっています。
このように日本企業が海外展開する上位12カ国のうちほとんどがアジアを占め、物価や人件費の安さ、日本からの距離的なことも進出のしやすさとなっていることでしょう。
海外進出を検討している企業数
JETRO(日本貿易振興機構):激変する世界情勢と日本企業の海外ビジネス
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2019/0401/a8e5c0f709227d49.html
JETRO(日本貿易振興機構)が毎年行っている日本企業の海外事業展開についてのアンケート調査では、2014年度~2016年度の3年間では60%台を維持していました。2017年以降は約4%落ち込みつつも、約6割の企業が海外進出し事業拡大を図っています。
その理由には「国内での需要減少と海外での需要増加」「国内市場の縮小傾向でシェア拡大は望めないため、参入可能な海外市場で会社の規模や成長性への期待」などによって海外進出を目指す意見が多く寄せられています。
一方で海外参入するためには「人材・資金などの経営に必要な資源不足」や「人材育成するための人材・時間・資金不足」といった課題も大きくぶつかってしまうようです。そのため費用対効果を考慮して、海外進出ではなくまずはインターネットを利用した輸出で対応し本格進出を視野に入れたビジネス戦略を練る企業も多くあるようです。
撤退を検討・撤退したことがある国
中小企業白書「2014年中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来」https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/PDF/09Hakusyo_part3_chap4_web.pdf
海外へ進出する日本企業の数や、人気の進出先がどの国・地域なのかお分かりいただけたかと思います。次にどれほどの割合で「海外進出での撤回を検討している」と「撤退を経験したことがある」国・地域について紹介していきます。
中小企業白書の発表によると日本企業の海外進出は中国がもっとも多く、拠点数では全体の約43%(32,349拠点)を占めるほど多くの企業から人気があります。しかし進出とほぼ同じ約42%もの割合が中国での撤退を経験し、約62%の日本企業が中国での撤退を検討していると大きな負担となっているようです。
企業が陥りやすい「6つの失敗パターン」と「その対策」
大きなビジネスチャンスを願い海外へ飛び込んでいく企業が多い中で、撤退していく企業も多いことが分かったかと思います。実際にどのような理由で撤退していくのでしょうか。ここでは「撤退=失敗」したケースとして、6つの失敗パターンを紹介していきます。
①現地調査が不十分
進出前の事前調査の情報が足りず、さらに自社の強み・弱みや課題をよく知らずに、間違った判断でそのまま進出してしまったため失敗してしまう問題です。市場調査する方法は大きく分けて3つあります。
- 行政機関が調査したデータをインターネットで調べる方法
- 民間企業などが行う現地調査を活用する方法
- 自社で現地に出向いて調査する方法
自社で現地に出向いて調査を行う際に気をつけなければならないことがあります。それは調査担当者と戦略立案者が別の場合、現地に派遣された調査担当者が「都合のいい情報」や「ネガティブな情報」など偏った情報のみを収集してしまうことです。その偏った情報だけを社長・現地責任者・戦略立案者に伝えても、経営や事業判断に関わる本当に必要な情報が収集・伝達できない可能性があります。
そのため現地調査担当者とビジネス戦略を管理する現地責任者を同一人物にすることが必要です。ただしその場合、自社のことを隅々まで把握していなければなりません。日本国内にある既存事業の内容やその市場について広く深く理解していなければ、海外で情報収集をしても良い戦略を練ることは難しくなるでしょう。
大企業とは異なり中小企業は調査にかけられる予算が潤沢ではないので、限られた予算の中でいかに濃い情報を集められ、そして戦略に結び付けていけるかがカギとなります。
②適切なパートナーを探すことができない
国や地域が異なれば、文化や常識も大きく異なります。見識を持ち信頼できるパートナー選びができないことによってトラブルが増えてしまうことや、パートナー企業と自社が考えるターゲット層の違いの差で売上や利益が伸び悩んでしまうことがあります。
海外進出においてパートナー企業なし、つまり自社のみで展開していくケースは非常に稀なことです。そのため現地の商習慣を知り尽くした調査会社、取引会社、法律・会計事務所など、現地のパートナー選びは必要不可欠と言えるのです。そして市場の把握、自社が狙うターゲット層、目的などをパートナー相互で理解しあい、スキルやノウハウを広げていくことが重要となります。
③合弁企業との連携ミス
複数の企業が資金を出し合い事業を行う合弁企業は、それぞれの経営陣が入るということになります。日本国内でも同じことは言えますが、海外進出前の交渉場面で相手側経営陣のプレゼン力が高く、自社の利益となることのみ信じて疑わなかったことによってトラブルが発生してしまうことです。
またパートナー企業が現地法人であることでどうしても現地企業側にパワーバランスが強くなり、事業が乗っ取られてしまうこともありえるでしょう。さらに営業力や販売力が思っているよりも成果が出ないため受注が伸び悩み、多くの在庫だけを抱えてしまうこともあります。
④日本の成功体験だけで、そのまま海外展開する
自社を高く評価しすぎていることやローカライズしないことで失敗するケースです。「日本で大きく成功したから、このまま海外でも通用する」といった成功体験や「日本製品は信頼があるから売れる」など、海外市場を軽視していることです。国が違えば消費者の趣味・嗜好・文化は大きく異なり、価格や品質などのニーズにも違いが出ます。企業名や日本製品というネームバリューだけでは勝負に勝つことは難しいため、現地市場で何が求められているかニーズをしっかり把握することが大切です。
⑤現地の意見を取り入れず、日本人のみでマネジメントする
先述した「日本の成功体験だけで、そのまま海外展開する」と関連していることですが、日本で成功した方法を海外でも行うため、日本人だけで現地をマネジメントしてしまうことで失敗してしまうことです。国が異なれば文化、働き方、習慣など大きく変わります。日本と同じやり方でビジネスを行っても、現地パートナー企業、現地スタッフと環境や価値観のズレが生じ、トラブルを招いてしまうこともあります。日本と現地それぞれの良いところを取り入れつつも、ローカルに寄り添うような経営を行うことが重要です。現地でマネジメントを行う人材は現地語でコミュニケーションを取れるだけでなく、現地の商習慣や文化などを理解し環境を整えていける優秀な人材を育てていきましょう。
⑥カントリーリスク対策ミス
トラブルや災害など万が一の時にどのような対応をとるべきなのか事前対策を取らなかったことで、日本本社にまでダメージを与えてしまう失敗です。治安、親日、親和性などの高さから魅力に感じた国へ進出をしたとしても、政治や法律などが要因となって移転や撤退せざるを得ない状況になることがあります。事業計画や行動計画を作る際には、トラブルが起きた時の対策までしっかり練っていきましょう。
「海外進出での撤退理由」や「起こりえるトラブル・リスク」について詳しく知りたい方はこちらの記事もぜひご覧下さい。
記事タイトル「初めての海外進出の進め方(ステップ)|リスクやトラブル対応まで解説」
海外進出で失敗リスクを減らす対策方法
海外進出には巨額の費用や多大なる戦略が必要となるため、失敗はなるべく避けたいものです。ここではどのような対策をとって失敗リスクを減らしていけるのか紹介していきます。
意思決定を早くし、常に修正を加えていく
ビジネスにおいて常にスピード感ある意思決定をすることが重要です。海外進出する場合には現地ではなく日本国内に拠点を置く本社などが意思決定を行うことで、決断スピードの遅くなることが多くの問題となっています。ビジネスを行っていると日本では考えられない政治や経済での影響、災害などさまざまな問題に遭遇することがあるでしょう。
その都度現場や現地から決定権のある日本本社に情報を伝え、検討と結論を待っていると事業スピードが遅くなり、他国・他社のライバル企業に追い抜かれてしまいます。それは信頼や機会損失にも繋がってしまうのです。意思決定を早くするためには「出来る限り現地で決定できる仕組みを持ち、スピードを意識すること」「現地の動きを把握しながら、臨機応変に軌道修正していく力」「失敗を恐れず行動していくこと」が必要となります。
事前に撤退プランを決定しておく
海外進出で失敗しないための対策や、成功する秘訣を把握しておくことは大切なことです。それと同時に万が一撤退や移転を検討しなければならない状況になった際、「どの基準で移転・撤退するべきか」「どんなプランで移転・撤退していかなければならないか」を海外進出前に決めておくことも重要です。
海外では経済や市場が目まぐるしく変化しているため、突然移転や撤退をしなければいけないこともあるでしょう。その際に海外拠点と日本事業の損失を最小限に抑える必要があります。あらかじめ明確なプランを決めておくことで海外進出でのダメージを抑えられるだけでなく、問題を見つけて経営戦略を見直すことも可能となります。
現地やライバル企業などの情報を正しく把握する
海外進出のための情報収集には市場、現地、ライバル企業、ニーズなど多くの情報が必要となります。進出前の情報収集はビジネス戦略を立てることや、リスク分析する上でも非常に大切なことです。どのような内容どのような方法で調査しなければならないのかなど計画しておけば、効率良く漏れのない調査ができます。また日本国内やインターネットで調べた情報内容が現地の情報と合っているのか確認することや、調査状況に合わせて新たな調査項目を追加しながら情報収集不足がないようにしていきましょう。
また中小企業の場合は特に進出後に資金繰りのミスによって軌道修正できず、移転や撤退をせざるを得ない場合も多くあります。災害や政治的被害などのトラブルまであらゆる想定をし、いざとなった時自社にどれだけの資金力があるのか、もしくは省庁や自治体などによる補助金や助成金が受けられるのか条件を確認しておくことも必要です。
「海外進出に必要な補助金・助成金」について詳しく知りたい方はこちらの記事もぜひご覧下さい。
記事タイトル「海外進出に必要な検討~実施までのノウハウとは?失敗事例と成功への道」
現地スタッフ・合弁企業とコミュニケーションを怠らない
パートナーである合弁企業や現地スタッフと最高の関係を築いていくためには、円滑なコミュニケーションを取ることが大切です。日本の常識や価値観は非常識となることも多く、経営指針の不一致によりトラブルを招いてしまうこともあるでしょう。また日本国内でも経営側と現場とでは温度差が大きいケースもあり、コミュニケーションが取れていないと現地スタッフにとってはさらにその溝は深まってしまうことも考えられます。
相互の経営者は経営戦略・経営計画・ビジョンなどの経営指針を明確に示したうえで考えを擦り合わせていくこと、そして現地スタッフとは語学や文化を理解しあえるように体制を整えましょう。
まとめ
この記事では海外進出を検討している方向けに、「多くの企業が海外展開で失敗してしまう理由」や「その対策方法」について解説しました。日本と海外では文化、ビジネスのやり方、習慣など異なることは当たり前のことです。そうなるとこれまで日本で成功してきたやり方では通用せず、ゼロから戦略を組みなおす必要があります。進出準備や環境をしっかり整え、大きなビジネスチャンスを獲得していきましょう。
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